本研究の当初の目標は、結晶基板上に薄膜状に成長させた原子に対して蛍光X線ホログラフィの手法を適用して、原子座標を立体的に決定することであった。そのための試料としてGe原子を1原子層程度ドープしたSi/SiGe/Si結晶を用意して、強力な放射光光源であるSPring-8で測定を行った。しかし得られたGeの蛍光X線の強度が予想に反して極めて弱かったので、薄膜状の試料で測定を行うことは断念した。 その後バルクのGe(111)結晶を用いて蛍光X線ホログラフィの実験を行った。 蛍光X線ホログラフィの手法には下記の2種類がある。 1. 注目する原子から放出された蛍光X線が周囲の原子によって散乱されて物体波を形成し、直接放出された参照波の蛍光X線と干渉する。その強度を広範囲の立体角にわたって測定してホログラムを得る。(順過程) 2. 1.とは逆に、平面波X線をある方向から試料に対して入射させ、入射波のうち注目する原子に直接到達するものを参照波とし、周囲の原子で散乱されてから到達するものを物体波として、注目する原子の位置で干渉させる。その干渉の強度を蛍光X線の収量でモニターする。同様の測定を入射線の方向や波長を変えて繰り返し、波数空間での強度分布を得る。 (逆過程) バルクの試料の測定はフォトンファクトリーで2回行い、順過程と逆過程の両方のデータをとった。試料がバルクであるため収量は十分であった。データをフーリエ変換することによって実空間の原子位置が再現できたと思われる。
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