低エネルギー電子を標的原子・分子に衝突させると入射電子は一時的に原子・分子に捕えられて負イオン状態(共鳴状態)を形成する。電子と原子・分子との間でエネルギーのやりとりがあった後、この負イオン状態は壊れる。この散乱過程は共鳴散乱過程と呼ばれる。特に振動励起過程はこの共鳴散乱過程を経ておこるのが支配的であり、有名なものに窒素分子の振動共鳴散乱過程がある。我々の住む地球には色々な分子が存在しているが、今問題となっている地球温暖化現象はこの大気分子が地上から発せられた熱(低エネルギー)により振動励起が起きることに起因する。このように低エネルギーでの分子の共鳴散乱過程を調べることは意義のあるものと思える。 この共鳴散乱過程を調べるために、我々は新しいタイプの電子分光器の設計および製作を行なった。共鳴状態のエネルギー幅は狭いことが多いので、使用するエネルギー分析器は高分解能なものが必要となる。我々の用いるエネルギー分析器はトロコイダル型エネルギー分析器と呼ばれるもので、交差させた電場と磁場の中での電子の描く軌道(トロコイダル軌道)によるエネルギー分散を利用したものである。このタイプのものは低エネルギー実験において特に有用である。 高分解能、高感度、高強度をもつ電子分光器を製作するため、さらに新たな電子光学系を考え、排気には差動排気システムを用い、また各々のレンズにかける電圧は全てコンピュータでコントロールするシステムを用いている。 本研究ではトロコイダルエネルギー分析器を利用した新たな電子分光器を設計及び製作し、本装置の特徴を実際に調べた。
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