研究概要 |
陸生哺乳類(シカ科,ウシ科,イノシシ科),海生哺乳類(海牛類,クジラ類,鰭脚類)ならびに海生軟体動物(腹足類キサゴ類,サザエ類,ウミニナ類,エゾバイ類)に関して分子系統解析を行うために,多くの現生種の生体試料を入手し,それらから全DNAを抽出し,新生代以降の系統解析に有効なミトコンドリアDNAの12SRNA遺伝子,16SRNA遺伝子,Cytochrome b遺伝子領域をPCR (DNA増幅反応)によって増幅し塩基配列決定をすすめた.哺乳類のクジラ類,シカ科,ウシ科,鰭脚類,ならびに海生軟体動物腹足類キサゴ類,ウミニナ類,エゾバイ類に関しては分子系統樹を作成することが出来た.特に,哺乳類のクジラ類,シカ科,海生軟体動物腹足類ウミニナ類に関しては分子系統解析の成果を論文にまとめ,国際誌に投稿準備中である. 一方,化石記録の調査に関して本年度は,日本の鮮新-更新世の暖流動物群である掛川動物群について,海洋環境の変遷にともなう種構成の時間的変遷について種分化の観点から解析するとともに,掛川動物群のモノグラフを完成し出版した(総206頁).また,西南日本の新第三系及び第四系より産する暖流系海生軟体動物化石群の種構成・時空分布を調査し,各系統における新しい種の出現・交替は海洋気候の顕著な温暖期(Neogene climatic optima)に対応して同時・多発的に起きている基礎資料を蓄積した.今年度行った,ウミニナ類などを対象とした分子系統解においても,分子時計と用いて得られた種分化のタイミングは新生代における気候変動の著しい磁気とよい一致を示すという結果を得た.これらの成果は,種分化は気候変動(環境変動)に励起され一斉に生じているという,本研究課題の作業仮説を支持している.
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