変成度の少ない炭素質隕石であるKainsaz隕石(タイプCO3.3)の薄片に対して、その中に含まれる難揮発性包有物(CAI)、とりわけヒボナイト包有物を中心にして、イオンマイクロプローブによる多元素の同位体分析を試みた。大部分の包有物およびコンドルールの酸素同位体組成の分析値は、通常のCAIと同じ混合線上に乗り、同位体異常の最大値は-40〜-50パ一ミルであった。しかし、ひとつのヒボナイト包有物(#2)はそれから大きくはずれ、デルタ18の値はほぼ正常(+6パーミル)であるにもかかわらず、デルタ17の値が-14パーミルと、非常に低い値を示した。このような酸素同位体組成は、いわゆるFUNと呼ばれる包有物の示す組成に近い。次に、同じ包有物(#2)に対して、マグネシウムおよびカリウムの同位体測定をおこない、包有物形成時に存在したA1-26(半減期72万年)、Ca一41(半減期10万年)の存在度を調べてみた。その結果、A1-26/A1-27〜5x10E-5、Ca-41/Ca-40〜1E-8という値が得られた。これは「正常な」酸素同位体組成を持つCAIに見られるのと同程度の同位体異常である。今回の結果は、従来知られていたFUN包有物の特徴、すなわちA-26、Ca-41の同位体異常をわずかしか持たないとの予想をくつがえすものである。この事実は、FUN包有物に見られる酸素同位体の大きな質量分別を起したイベントが、太陽系形成の最初期、すなわちCAI形成とほぼ同時期に生じたことを示している。今回の結果は、難揮発性包有物を生成した原始太陽系星雲内でのブロセスに対して、大きな制約条件を与えるものである。
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