本研究では、まず二次イオン質量分析計(イオンマイクロプローブ)を用いた酸素同位体の微小領域分析技術を確立することに成功した。現在、約10μmの微小領域に対して、酸素17/16比、18/16比の分析精度がそれぞれ±2‰という、世界でもトップクラスの分析精度を達成している。本研究では、その分析技術を用いて、隕石中の包有物やコンドルールにおける酸素同位体組成の微細な分布を精力的に調べた。従来、炭素質コンドライト中に多く含まれるCAIと呼ばれる難揮発性包有物に、4-5%にも達する酸素16の過剰が存在することがわかっていた。本研究の大きな目的のひとつは、イオンプローブによる微小領域分析の技術を用いて酸素同位体異常の起源に追ることにあった。研究を進めるうちに、CAIと呼ばれる難揮発性包有物の他に、隕石中に最も普遍的に見られる鉱物であるオリビンにも全く同様の酸素同位体異常を持つものがあることを発見した。その成果は北海道大学の橋元博士との連名で『サイエンス』誌に掲載された。これは酸素同位体異常の起源を考える上で非常に重要な結果である。また、異なるグループに属する炭素質コンドライトについても、それらに含まれる包有物の酸素同位体組成は、驚くほど一様であることもわかってきた。この事実は、包有物が共通の起源あるいはメカニズムにより生成したことを強く示唆する。まだ結論は出ていないが、本研究の結果は、原始太陽系内部における化学反応が酸素同位体異常の起源となっている可能性を示唆している。本研究ではまた、イオンプローブによるマグネシウムやカリウム同位体の分析を酸素同位体分析と組み合わせることによって、包有物の形成年代、変成年代等についても新しい知見を得ることができた。それらの研究成果は、そのつど国際学会等で公表してきた。
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