本研究では、まずオングストローム法による熱拡散率測定システムの構築を行った。プログラマブル電源により、コンピュータ制御された加熱システムをつくり、加熱電力を正弦波的に変動させることにより、温度波を発生させる。試料中に挿入した2本の熱電対を外部トリガーを用いて同時に計測し、2つの異なる点における温度振動の振幅と位相差を測定する。実験終了後、試料中に挿入した熱電対の位置を測定し、熱電対の位置と、温度振動の位相差から、熱拡散率を計算する。 この手法により、高温高圧下におけるペリクレース・フォルステライト・ジルコニア・コランダムの熱拡散率を測定した。これらの物質は、格子伝導が支配的な温度領域では熱拡散率は温度上昇と共に減少し、圧力上昇と共に増加する。ペリクレースは単純物質に見られるように、熱拡散率の逆数は絶対温度に対して直線的に増加し、その傾きは圧力上昇と共に減少する。フォルステライトの熱拡散率の逆数を絶対温度に対してプロットすると、上に凸の曲線になる。これは、格子伝導の熱抵抗が単純なウムクラップ過程ではなく、複雑な結晶格子の効果もあることを示唆している。コランダムの熱拡散率の逆数は、絶対温度と直線関係にある。だが、圧力が上昇しても、その傾きはほとんど変化しない。逆にその切片が減少する。この効果もウムクラップ過程では説明できないが、コランダムは熱拡散率の値が非常に大きく、測定が系統誤差を持っている可能性が否定できない。 フォルステライトの熱拡散率は、Fo89組成のかんらん石より30%ほど大きい。0GPaから6GPaの圧力上昇に伴い約40%増加する。この値はFo89組成のかんらん石より40%ほど大きい。 高圧下で測定したジルコニアの熱拡散率は、常圧下で測定したものより50%以上大きい。
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