研究概要 |
平成10年度は本研究の最終年度であり,ここで総括を行う.本研究は二つの部分に分けられる.一つは下部マントル物質の寄与を示す高いヘリウム同位体比が得られるか検討するために,カナリア諸島の試料のヘリウム同位体比測定を行った.ヘリウム同位体比測定は東大理学部地殻化学実験施設の質量分析計を利用した.測定に先立ち光電子増倍管の検討を行い,ノイズレベルの低下を試みた.岩石破砕法では十分なヘリウムが得られない試料は岡山大学固体地球センターで溶融法により測定を行った.その結果ランザローテ,テネリフェ,イエロ,ラパルマの各島からのカンラン石試料で大気の6.5から7.0倍のヘリウム同位体比を得た.今回の測定結果からは下部マントル物質の寄与を示す高いヘリウム同位体比は得られなかった.この原因として,ガス試料で下部マントル的な同位体比を検出したラパルマ島の試料が少ないこと,または測定に用いた試料が風化によりヘリウムを失っていることなどが考えられる.現在地殻化学実験施設で質量分析計の改造中を更に進めており,より少量の吟味された試料で再分析を行う予定である. もう一つの部分はヘリウム同位体比とネオジム,ストロンチウム.鉛などの固体元素の同位体比や濃度との相関を明かにすることである.これについては,研究代表者が東大地震研に異動した後,化学実験室を整備し,岩石分解などの手順,同位体比測定のための元素の抽出・分離法,ICP-MSによる微量元素定量法の確立を行った.この結果,岩石を分解した溶液を用いてRb,St,Ba,REE,U,Th,Nb,Ta,Zr,Hfなどの微量元素を5%以下の精度で測定することが可能になった.またPb同位体比測定の分離法を確立し100pg以下のブランクで分離が可能になった.本研究期間内には,実試料への適用が間に合わなかったが,今後,固体微量元素濃度.同位体比を組み合わせた議論を進めて行く.
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