研究概要 |
時間分解ラマン分光,時間分解赤外分光,ab initio法による基準振動計算により以下のことを明らかにした. (1)ジフェニルアセピンの光化学ダイナミックス:ピコ秒時間分解吸収スペクトル及び共鳴ラマンスペクトルの測定により、ジフェニルアゼピンは基底状態では折れ曲がった“バタフライ構造"をとっているが、紫外光照射により最低励起一重項状態に励起されたとき、励起後0〜30psの極短時間に分子構造の変化を起こして、平面構造になることを明らかにした.また、ジフェニルアゼピンの蛍光スペクトルは異常に大きいストークスシフトを示すことを明らかにしたが、このことは分子構造が折れ曲がった構造から平面構造に変化することを支持する. (2)ジベンゾスベレン誘導体の光化学:5-ジベンゾスベレノールは基底状態では折れ曲がった構造をとっており、OH基がエクアトリアルの構造とアクシャルの構造の2種の異性体が存在する.ピコ秒時間分解ラマン分光法を用いて、最低励起一重項状態、最低励起三重項状態および前者から2光子過程で生成するラジカルカチオンではOH基がエクアトリアルの構造を持つ分子構造をとっていることを明らかにした.また、これらの電子励起状態およびラジカルカチオンでは中心のシクロヘプタトリエン環のC=C結合の結合次数が大きく低下しており、特に最低励起三重項状態での低下が著しいことを明らかにした. (3)カルバゾールの光化学:ピコ秒時間分解ラマン分光および吸収分光により、カルバゾールは紫外光照射により、最低励起一重項状態を経由してカチオンラジカルおよびカルバジルラジカルを生成するが、これらの生成には2光子が必要であること、また、極性溶媒中ではこれら2種のラジカルの生成は互いに競争関係にあり、無極性溶媒中ではカルバジルラジカルのみ生成し、カチオンラジカルは生成しないことを明らかにした.なお、この光化学反応では最低励起三重項状態も生成するが、これら2種のラジカルの生成には関与していない.
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