研究概要 |
(1) 5-ジベンゾスベレンおよびその誘導体5-ジベンゾスベレノールの電子励起状態S_1,T_1およびカチオンラジカルR^<+・>の構造とダイナミックスを,時間分解共鳴ラマン分光および時間分解吸収分光により,ピコ秒〜ナノ秒の時間領域で研究した.両化合物ともに,S_1状態において振動冷却が約13psの時間で起こることが分った.S_1状態でのコンフォーメーション変化については明確な情報は得られなかったが,ピコ秒時間領域におけるラマンおよび吸収スペクトルの変化はS_1状態においてもOH基に関してpseudo-equatorialおよびpseudo-axialの2種の異性体が共存することを示唆している. (2) 酵素による還元型ニコチンアミドアデニンダイヌクレオチド(NADH)の酸化反応のモデルとして一電子光酸化を,ナノ秒の時間領域での共鳴ラマン,吸収分光およびab initio分子軌道計算により研究を行った.酵素反応ではNADHからNAD^+への一電子酸化過程はハイドライドイオンH^-の脱離による1段階の反応と考えられてきた.しかし,光酸化反応は,(i)電子移動によるカチオンラジカルNADH^+・の生成,(ii)プロトン移動によるラジカルNAD^・の生成(iii),電子移動によるNAD^+の生成,の3段階の反応であることが明らかとなった.酵素反応においても酸化がこの3段階を経て起こっている可能性を示唆した. (3) オルトニトロベンジル化合物の光誘起分子内水素移動を時間分解共鳴ラマンおよび吸収分光により研究した.この反応は,S_1状態においてオルトニトロ基がメチレン基のプロトンを引き抜いてアシ・ニトロ酸を生成することでスタートする.極性溶媒中ではアシ・ニトロ酸はアシ・ニトロアニオンとプロトンに解離し,このプロトンが2-ピリジル基,4-ピリジル基,4-ニトロ基と結合して,それぞれ,オルト,パラN-Hキノイドおよびパラ・アシニトロ酸を生成することを明らかにした.
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