研究概要 |
独自に開発したイオン化検出赤外分光法を用い、超音速ジェット中の孤立分子環境下での高振動状態の観測を実現した。。このイオン化検出赤外分光法は赤外-紫外二重共鳴分光法の一種であり、赤外レーザーで生じる振動励起分子だけを紫外レーザーで選択的に非共鳴イオン化することで赤外吸収を測定した。選択的イオン化は、振動励起分子のイオン化に要するエネルギーが通常の分子に比べて大幅に低下する事を利用し、紫外レーザーの波長を適切に選択して実現した。試料濃度が非常に希薄な超音速ジェット中でも高振動状態が観測できることを昨年度、フェノール分子(C_6H_5OH)により実証した。その際、高振動状態ほど緩和速度が遅くなる特異な現象を見出した。そこで本分光法を同位体置換したフェノール分子(C_6H_5OD,C_6D_5OD,C_6D_5OH)に適用し、バンド形状変化の同位体効果を検証した。観測結果はC_6D_5ODは軽フェノールと同じく高振動状態ほど緩和が遅くなるが、部分的に量置換したC_6H_5OD及びC6D50Hでは高振動状態ほど緩和が早くなる事が明らかになった。さらに高振動状態の緩和先である熱浴準位構造を調和振動子で近似して得た計算結果とも比較し、OH高振動状態にからの緩和はランダムではなく、特定の高次結合音振動(Door way state)を一旦経由して緩和する機構で返ることを明らかにした。Door way stateとしてはCH振動とCC振動の結合音が考えられる。この様な非統計的な緩和機構は高振動状態をレーザー励起して特異的反応を誘起できる可能性を示しており、重要な結果と考えられる。合わせて1-ナフトール溶媒和クラスター、7アザインドールクラスター、アミン分子(DABCO)に対する適用も行った。
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