本研究では金属表面上での吸着種の電子状態と光り化学反応性の関連を明らかにするために、超薄膜やクラスターといったナノ構造を持った物質に注目して研究を行った。本年度は、主に次の2点について重点的に研究を行った。 1. パラジウムクラスター上でのメタンの光化学:金属超薄膜やクラスターは真空との界面と基盤との界面にはさまれた量子井戸あるいは量子ドットであり、また、実用的な触媒のモデルケースとして考えることができる。そこで、NiAl(110)上に準備した平坦なアルミ酸化物の上にパラジウムクラスターを生成させ、この上でのメタンの吸着状態を昇温脱離、X線光電子分光を用いて調べ、更に、その光反応を観測した。パラジウムクラスターのサイズおよびその分布は基盤温度と蒸着量を変化させることにより制御した。まず、昇温脱離の実験からクラスターサイズが大きくなるにしたがって、メタンの吸着エネルギーが増大することがわかった。次に、パラジウム単結晶表面と同様にメタンは193nmの光照射によって解離、脱離をすることを確認した。特に、その反応分岐比に明瞭なクラスターサイズ依存性があるという特徴的な現象を見出した。これは、メタンと表面原子との相互作用が明らかにクラスターサイズに依存することを示しており、今後の理論的解析が待たれる。 2. 銀表面吸着酸素の光化学:銀(110)表面に吸着した酸素原子が、光照射によって表面から消失することは以前から知られていた。本研究では、そのメカニズムとダイナミクスを解明し、また、銀薄膜での現象との比較を目的に研究を行った。観測はLEED、XPS、TPDを中心に行い、反応断面積およびその波長依存性を測定した。その結果、反応効率が表面下近傍に存在するサブサーフェス酸素の存在に大きく依存することが明らかになった。
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