研究概要 |
気相の分子集合体(気相クラスター)におけるエネルギー緩和過程や異性化過程を実時間で観測することを目的として、本年度は以下の項目について研究を進めた。 1. 気相クラスター負イオンの電子構造・幾何構造 気相クラスター負イオンには、異なる電子構造を持つ構造異性体(electronic isomers)の存在が予想され、これらはクラスターに特徴的な「構造の揺らぎ」を実時間で観測するために最適な系である。これまでに研究例の殆どない気相クラスター負イオンの電子構造異性体の存在、および異性化過程を明らかにするために、実験(光電子分光)と理論(ab initio計算)の両面から研究を行った。この結果、(CO_2)_n^-,[(CO_2)_nH_2O]^-,[(CO_2)_nMeOH]^-について電子構造異性体が存在することを実験的に示し、ab initio計算によりその構造を推定した。さらに、特定のサイズのクラスターでは異性化のエネルギー障壁が極めて低く、[CO_2^-・H_2O(CO_2)_<n-1>]【double arrow】[C_2O_4^-・H_2O(CO_2)_<n-2>]の過程によって構造が揺らいでいることを実験的に明らかにした。 2. フェムト秒レーザーを用いた光電子分光 時間輻360fsのフェムト秒レーザーシステムを用いて、ポンプ-プローブ法による時間分解光電子分光を行い、(C_6F_6)_n^-の光励起状態の緩和を調べた。この結果、760nm〜820nmで光励起された(C_6F_6)_n^-の緩和寿命は1.5pS程度であることがわかった。この寿命は分子間振動モードへのエネルギー再分配の速度を反映しており、そのサイズ依存性等から、特定のサイトに位置する溶媒分子に対するエネルギー散逸時間の指標であると結論した。
|