研究概要 |
気相の分子集合体(気相クラスター)の緩和過程や異性化過程を実時間で観測し,少数多体系におけるエネルギー散逸のメカニズムを明らかにすることを目的として,以下の項目について研究を行なった. 1.溶媒和負イオン系の異性化過程 昨年度までの研究によって,(CO_2)^-_n,〔(CO_2)_nH_2O〕^-,〔(CO_2)_nMeOH〕^-などの気相クラスター負イオン系に,異なる電子構造を持つ構造異性体(electronic isomers)が存在することを実験およびab initio計算から明らかにした.本年度は,これらの系にphotodepletion-photoelectron分光法を適用してelectronic isomer間の異性化過程を調べ,少数の分子で構成された集合体に特有な異性化過程のメカニズムを明らかにした.さらに,(CO_2)^-_2については詳細なab initio計算を行ない,その異性化プロセスを理論的に調べた. 2.単分子溶媒和系の光解離 気相における電子過剰型ポリハロゲンI^-_3の光吸収スペクトルおよび光解離質量スペクトルを測定し,その電子構造を明らかにすると共に,光解離の分岐比に極めて顕著かつ系統的な単分子溶媒効果(唯ひとつの分子が溶媒和したことによって引き起こされる溶媒効果)を見出した. 3.時間分解光電子スペクトルの解析 昨年度は,フェムト秒時間分解光電子分光によって(C_6F_6)^-_nの緩和速度を決定した.本年度は,フェムト秒ポンプ・プローブ法によって測定した(C_6F_6)^-_n(n=3,4)の時間分解光電子スペクトルをナノ秒レーザー光脱離で得られた光電子スペクトルと比較し,特徴的なスペクトルシフトを見出した.このシフトが溶媒和による(C_6F_6)_nおよび(C_6F_6)^<-*>_nのポテンシャルエネルギー曲面の相対位置変化に由来すると結論した.
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