本年度は、前年度において設計、改良を行なった極低温マトリックス分離装置の製作が完了し、その装置を用いて光化学的に発生させた反応中間体の赤外、または紫外可視分光法による直接観測を試みた。従来型の極低温マトリックス分離装置を改良した最も大きな点は、クライオスタット内部回転機構を導入した点にある。このことは、(1)低揮発性試料を反応中間体前駆物質として用いること、(2)光化学反応以外の方法を反応中間体の発生方法として用いること、(3)測定手段として発光スペクトルの使用を可能にすること、の三点によって、本手法を有機化学反応の過程に介在する短寿命反応中間体の一般的、かつ総合的研究手法として確立させるという本研究の目的に基づくものである。本装置を用いて、o-アジドビフェニルを10K、アルゴンマトリックス中に単離して光照射し、赤外吸収スペクトルを用いて基質の変化を追跡した結果、従来の装置を用いて得られた結果と全く同様に、カルバゾールの生成とアザシクロヘプタテトラエンに帰属される微弱な吸収が確認された。こうして、改良型の極低温マトリックス分離装置を用いても、従来型と同様の実験が遂行できることが確認された。但し、赤外吸収スペクトルにおけるバックグラウンドの除去等にまだ問題があり、精密な実験を行なうためにはさらなる測定方法の検討が必要であることが判明した。
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