研究概要 |
平成11年度に引き続き以下の2つの研究をさらに進めた. (1)ジアステレオ面選択性の新理論の構築 昨年度までに完成させたジアステレオ面選択理論モデル(エクステリアフロンティア軌道広がりモデル;EFOEモデル)のへテロ元素系(3-or 4-heteracyclohexanone,1,3-diheteran-5-one;heteroatom=O,S,Se)への適用およびこれらの系の合成と面選択の実験的決定を行った.さらに,面選択過程の支配因子のMarcus理論による定量解析を行った.すなわち,面選択過程が反応推進力の速度論因子(固有障壁)の面差(カルボニル面の両側での反応推進力の差)によるものか,あるいは熱力学因子の面差によるものか,またはその両方によるかを定量的に解析した.その結果,面選択過程はほぼ100%固有障壁の面差に依存していることがわかった.このMarcus理論による結論は,従来の遷移状態の安定化効果を面選択の本質であるとする理論モデル(Felkin-Anh,Cieplak Model)の主張と矛盾するものであり,antiperiplanar効果などの電子の非局在化による熱力学的安定化効果の面差が面選択の支配因子にはなり得ないことを明確に示す結果である.この結果は,これまで我々が多数の遷移状態の計算に依って帰納的に導いた「antiperiplanar効果の面差は些少であり面選択とは無関係」という結論を理論的に裏付けるものである. (2)タンパク質における微弱相互作用型式の統計的抽出と機構解析 昨年来,タンパク質分子内における原子間微弱相互作用の統計解析を行ってきた.今年度もPDB(Protein Data Bank)のタンパク質X線データをもとに,種々の分子内相互作用のパターン(型式)を抽出し,それら相互作用の強さの評価と機構の解明を行った.新たに見いだしたのは,硫黄原子回りの原子間接触であり,S-S…S,S-S…O,C-S…Sなどのvan der Waals接触を自作のコンピュータープログラムで統計解析してデータを集めた. この研究の目的は,最終的にタンパク質のフォールディング機構を解明するための基礎データの収集である.
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