研究概要 |
ホウ素を含む二重結合化合物は非常に高反応性であるため安定な合成例はほとんどない。本研究では、高周期13族元素を含む多重結合化合物の化学への展開の足掛かりとして、申請者らがこれまで種々の高反応性化学種の安定化に応用してきた有用な立体保護基である2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル(Tbt)基の導入による速度論的安定化の手法を用いてまず安定なチオキソボラン1[TbtB=S]の合成、単離およびその基本的な構造・性質の解明を目的とした。 申請者らは昨年度、Tbt基をホウ素上に導入することで、l,3,2,4-ジチアメタラボレタン誘導体2の合成に成功した。そこで、この新規な含ホウ素複素環化合物である2のX線結晶構造解析を行い、その興味深い分子構造について系統的に比較検討を行った。 次に、l,3,2,4-ジチアスタンナボレタン2a[TbtBS2SnPh2]の熱反応を行ったところ、レトロ[2+2]反応が進行し、(Ph_2SnS)_3の生成とともに目的のチオキソボラン1が生成することを見いだした。1はl,3-ジエンとの反応により対応する[2+4]付加環化体3を与え、3は熱反応によりレトロ[2+4]反応を行って1を再生した。 2aとジメチルスルホキシド(DMSO)との反応を行ったところ、初めてのオキソボランの安定なルイス塩基錯体であるオキソボラン_DMSO錯体4が^<11>B NMRによって観測された。4とニトリルオキシドとの反応により、オキソボラン[TbtB=O]が[3+2]付加環化反応したと考えられる生成物が得られ、このことから、この反応ではホウ素-酸素二重結合化合物であるオキソボランが発生していると考えられる。 また、2aのセレン類縁体である1,3,2,4-ジセレナスタンナボレタン誘導体を合成し、その熱反応によりセレノキソボラン[TbtB=Se]が生成することを見いだした。
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