研究概要 |
最近、筆者らやJacobsenらの研究によってサレンマンガン錯体を用いる不斉酸化の研究は大きく進展したが、その反応機構や不斉誘起の機構に関してはなお論争点が残されている。この問題の結論を得るためにはより確実な実験的証拠を得ることが強く期待されている。そこでまず、錯体のX線構造解析を検討した。不斉エポキシ化の活性種はオキソ-サレンマンガン錯体と考えられているが、極めて活性であり、未だ単離には至っていない。しかし類似の錯体の単結晶を得ることには成功したので、現在構造解析中である。 筆者らはこれまで、サレン配位子の非平面構造に基づくキラリティーがサレン錯体の不斉誘起能と大きく関わっている不斉誘起機構を提案してきた。この仮説を基にサレンコバルト錯体を用いる不斉シクロプロパン化と不斉[2,3]-Wittig転位を検討した。即ち、一般にカルベノイドはオキセノイドと等電子構造を有することが知られているので、これまでのオキソ錯体の代わりに炭素アナログであるカルベン錯体を用いればオレフィンのエポキシ化の代わりにシクロプロパン化が可能になると期待した。そこでキラルなコバルト(II)錯体を臭素で酸化してコバルト(III)錯体とした後にジアゾ酢酸エステルと反応させた。その結果、スチレン誘導体のシクロプロパン化において高トランス選択性と高エナンチオ選択性の両方を初めて達成することができた。一方、アリルリ-ルスルフィドを同様の反応条件で反応させるとスルフィドとカルベン錯体との反応によりキラルなSイリドが一旦生成後、[2,3]Wittig転位が立体特異的に起こり対応する光学活性なエステルが立体選択的に得られることも判明した。触媒的不斉[2,3]Wittig転位としては最高の不斉収率であった。これらの不斉誘起機構は前述のサレン配位子の非平面構造に基づくキラリティーによって説明される。
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