研究概要 |
DNAリガンドによる塩基配列認識機構の解明は、遺伝子発現など生命現象の根幹に関わる重要な課題である。われわれはDNA-リガンド相互作用を分子・原子レベルで理解するために低分子量金属錯体を研究対象として研究を行ってきた。金属錯体は、中心金属の種類によりDNAへの結合モードが変わり、また、金属の酸化還元を利用したDNA鎖切断が可能であるなどのために解析に好都合だからである。さらに、金属錯体の吸収体がDNAのそれとは離れているために、DNAおよび錯体両領域の情報を用いて解析を進めることが可能である。DNAがキラルであるために、キラルでない金属錯体がDNAに結合すると金属錯体にCD(Circular dichroism)が誘起されることがある。これまでの研究で、ポルフィリン錯体は結合モード、たとえばmajor groove binding,minor groove binding intercalationにより異なった誘起CDスペクトルを示すことを発見し、CDスペクトルから結合様式が帰属できることを明らかにしてきた。現在、この研究を定量的解析に発展させている。結合定数を求めるために、種々のr値(化合物のDNA塩基対のモル比)で塩濃度0-500mM(r値によっては0-700mM)の間で15-18点塩濃度を変えた精密なスペクトルデータ1セットを収集し終えた。現在解析のアルゴリズムを検討しているところである。これと平行して、現在研究対象としているポルフイリンマンガン錯体と異なり、相互作用モードがイオン強度に大きく依存せず、水溶性が高く、DNAの塩基配列認識部位をもつことでConservative CDの寄与を減少させるポルフィリン誘導体をデザインし、合成を進めている。
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