研究概要 |
性質が異なる2つの安定状態を一つの物質上につくり出し、その状態間の遷移を自由にコントロールできれば、センサーやメモリーへの展開が必然的に期待される。我々は、有機・無機複合ナノコンポジットや有機ラジカル固体を対象に、このような双安定特性について研究を行っている。今回、安定有機ラジカル1,3,5-trithia-2,4,6-triazapentalenyl(TTTA)の磁気特性を結晶構造を調べたところ、分子が1次元的に等間隔に並んだ構造をもち常磁性を示す高温相と、分子が二量化して反磁性を示す低温相の間に、大きなヒステリシスをもつ一次相転移を見いだした。この相転移は、昇温過程では305Kで生じる一方、降温過程では230Kで起こる。つまり室温(298K〉において、磁気的性質が全く異なる面相を安定に単離することができる。分子性結晶におけるこのような磁気的な室温双安定は、これまで金属錯体で数例知られているものの、純粋な有機物で見いだされたのはこれが初めてのことである。
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