研究概要 |
本研究では金属電気伝導性を示す4d遷移金属系のルテニウム(Ru)のペロブスカイト型酸化物(Srl-xCaxRuO3)に注目し、その磁性の機構をスピン揺動の立場から明らかにすることを目的とした。この擬二元系の磁気的振る舞いを系統的にかつ微視的に理解するために、磁性を担っているRu自身の核磁気共鳴およびルテニウムと直接化学結合ボンドによって結ばれ金属的電気伝導を担っていると考えられる酸素の核磁気共鳴を中心的に行った。また、比熱測定や強磁場磁化測定を行い、遍歴電子の磁性理論と比較検討した。 まず、40テスラまでのパルス強磁場を用いた強磁場磁化測定の結果、Srl-xCaxRuO3系全体にわたり40テスラにおいても強磁性磁化が飽和せず、このことは遍歴電子系特有の振る舞いであると考えられる。また、Srl-xCaxRuO3系の比熱測定の結果、x=0からx=1に向かうにつれて、電子比熱係数が増大し、強磁性が消失するx=0.8で最大値(約100mJ/K2mol)を示すことが明らかになり、交換相互作用によって増強されていることが明らかになった。これらの値とその温度変化は遍歴電子強磁性に対するスピンの揺らぎの自己無撞着(SCR)理論で定量的に説明できることが解析の結果明らかになり、スピンの揺らぎのエネルギー幅と波数依存の幅を与えるパラメータT0、TAを系統的に見積もることができた。核磁気共鳴に関しては、Ru核の測定は現在進行中であるが、17Oの核磁気共鳴測定の結果、x=1.0,0.6に関しては絶対値、温度変化ともに遍歴電子強磁性に対するSCR理論に良く合うことが明らかになってきた。しかしながら、x=0の強磁性体に対してはSCR理論では説明が付かないこともわかってきており、この物質がインバー効果を示すことと考え合わせると中間領域の遍歴電子強磁性体であると考えられる。また、x=0のCaRuO3付近の磁気長距離秩序の喪失の原因は、反強磁性的な相互作用によるのではなく、強磁性から強磁性的な金属状態への移行であると結論づけられる。今後、磁性元素であるRu自身の核磁気共鳴測定を完結させ、さらに詳しく本系の微視的・動的振る舞いを調べていく予定である。
|