研究概要 |
本研究は、ヘテロ原子の特性に着目した不斉触媒反応の開発を目指して平成9年度から開始した。まず、光学活性なメントンから合成したジオールやピラゾール誘導体を配位子とする金属錯体を用いた不斉触媒反応を検討した。その結果、アルミニウム錯体を不斉触媒として用いたディールスアルダ-反応では、溶媒を変えるだけで両エナンチオマーの作り分けが可能となった。一方、新規に合成した光学活性なピラゾール誘導体を用いる不斉反応の研究では、アキラルなサレンマンガン錯体と組み合せることにより不斉エポキシ化が進行した。即ち、光学活性なピラゾール誘導体がサレン錯体に軸配位子として配位し、錯体の折れ曲がり構造に基づく立体配座を制御し、そこにある種のキラリティーを生じる。これにより不斉エポキシ化が可能となった。この結果はサレン錯体の折れ曲がり構造が不斉誘起に重要であるという仮説を強く示唆した。その後この考え方を発展させて、サレン錯体のエチレンジアミン部にカルボキシル基を組み込んだ錯体を合成してクロメン誘導体の不斉エポキシ化に用いたところ、定量的収率と98%の不斉収率、さらには従来の触媒よりも2桁近く高い1万回程度の触媒回転数を達成した。 一方、ジアジリジンを用いたα,β-不飽和アミドのアジリジン化も開発した。この反応では、熱力学的に不安定と考えられるシスーアジリジンが非立体特異的かつ高ジアステレオ選択的に得られた。光学活性なジアジリジンを用いると99%ee以上の完ぺきな不斉収率を達成することもできた。 以上示した如く、不斉触媒反応における特異な溶媒効果、触媒効率の飛躍的向上、新しいシス選択的アジリジン化法の開発に成功した。何れも従来にない反応特性や考え方を示した重要な成果であると考えている。
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