本研究では、現在論争となっている縄文人の「東南アジア起源」あるいは「北東アジア起源」の仮説を検証すため、東南アジアおよび北東アジアの集団にに着目した、タイの3集団(コンケン、チェンマイ、少数民族サカイ)、マレーシアおよびインドネシア集団を含む東南アジアの5人類集団について、ミトコンドリアDNAのDループ領域の塩基配列を分析した。159人の東南アジア人について563bpの塩基配列を比較したところ、119の異なる配列のタイプが見られた。これらのうち98タイプは、それぞれの集団に特有のものであり、残りの21タイプは集団間に共通して見られた。系統樹分析によって、東南アジア人は少なくとも6個の単系統クラスターに分類されるが、5集団からの系統は各クラスター中に完全に混じりあっていた。昨年報告した東アジアの5集団以外に、新たに分析したハルピンの中国人(60人)、アフリカ人、ヨーロッパ人、アメリカ先住民のデータを併せて解析した。塩基多様度のネット値(DA)に基づき集団の系統樹を作成したところ、東アジアと東南アジアの各集団は単系統クラスターを形成するが、さらに南と北のグループに分割される傾向が読み取れた。平均距離法による系統樹では、南グループには台湾中国人、インドネシア人とタイ人が含まれ、北グループには、本土日本人、韓国人、ハルピンの中国人、琉球人とアイヌが含まれた。しかし近隣結合法による系統樹では、アイヌは南グループと北グループの中間に現われるという微妙な系統的位置を示した。
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