研究概要 |
1. 植物の生活史特性は,環境,遺伝,および両者の相互作用による制約のもとで発現される.量的遺伝学の手法を用いることにより,植物集団にみられる生活史特性の変異を上記3つの要因に分解して解析することが可能である.本研究の目的は,一回繁殖型の生活史をとる草本植物を材料にして,その繁殖臨界サイズの遺伝的な背景を調べ,あわせて野外個体群の個体群統計的な調査によって個体の適応度を推定し,一回繁殖型草本の生活史進化に対する理解を深めることである.今年度は,多摩川中流域に分布するカワラノギクと小笠原諸島に分布するオオハマギキョウを材料として,その繁殖特性と個体群動態の調査を行った. 2. 1998年の秋〜冬にカワラノギクについての種子をそれぞれ繁殖齢の異なる母親個体ごとに採取し,1999年4月から温室で貧栄養と富栄養な条件下で栽培した.1年草の生活史を示した個体は特定の家系にかたいえっていたが,その種子親の繁殖齢が若い傾向はなかった.さらに栽培実験を継続して,カワラノギクの繁殖臨界サイズにおよぼす環境および遺伝的要因について解析する予定である. 3. オオハマギキョウについては,父島列島東島の個体群の動態調査を継続し個体群統計パラメータの変動幅や変動要因を解析した.1998年における繁殖臨界サイズは1997年や1996年のそれと比べて小さく,1繁殖個体あたりの種子生産数も少なかった.一方,1998年は繁殖個体数が多かったため,1996〜1998年の各年の個体群全体での種子生産量は2.2×10^7〜2.7×10^7と安定していた.個体群のサイズは1996年5月〜1997年5月の期間に1.2倍に,1997年5月〜1998年5月の期間に7.4倍に増加した.しかし,推移行列モデルから推定したそれぞれの期間のλは0.94,0.61と,ともに1以下であった.
|