研究概要 |
1.本研究の目的は,一回繁殖型の生活史をとる草本植物を材料にして,その繁殖臨界サイズの遺伝的な背景を調べ,あわせて野外個体群の個体群統計的な調査によって個体の適応度を推定し,一回繁殖型草本の生活史進化に対する理解を深めることである.今年度は,多摩川中流域に分布するカワラノギクの母親個体ごとに採取した種子由来の植物を異なる栄養条件を設定して温室内で栽培し,繁殖臨界サイズを測定した.また,小笠原諸島に分布するオオハマギキョウとオオハマボッスを材料として,その個体群動態の調査を行った. 2.繁殖齢の異なる母親個体ごとにカワラノギクの種子を採取し,温室で貧栄養と富栄養な条件下で栽培した.繁殖臨界サイズと繁殖臨界エイジにおよぼす環境および遺伝的要因について解析した結果,繁殖臨界エイジは家系間で有意に異なったが,繁殖臨界サイズは家系間で有意な差はないことが明らかになった. 3.オオハマギキョウの個体群統計パラメータの変動幅や変動要因を解析した.1997年度は1996年度と比べてロゼット個体の死亡率が高かった.これは1997年7〜8月の降水量が前年に比べて少なかったためと推測した.1997年度の繁殖率は1996年度に比べ10倍以上高かった.これは1997年の種子散布時期(9月)〜1998年3月までの発芽定着期の積算降水量が前年度に比べて4.5倍も多かったためと推測した. 4.小笠原に生育するオオハマボッスの実生の死亡要因とその空間パターンを統計的手法を用いて解析した結果,季節特異的な死亡パターンが検出された.この結果は,競争効果と定着地の土壌条件の両環境要因が異なる空間スケールでオオハマボッスの死亡に影響を与えていたことを示唆する.
|