研究概要 |
シロイヌナズナのmto1-1変異株は若い時期のロゼット葉に野生型株の約40倍の遊離メチオニンを蓄積する.メチオニンはアスパラギン酸族のアミノ酸であるが,同族の他のアミノ酸の蓄積には大きな違いは見られない.メチオニンの生合成経路が他のアミノ酸から分岐するO-ホスホホモセリン以降の経路の酵素遺伝子の発現を調べたところ,シスタチオニンγシンターゼ(CGS)mRNAの蓄積が野生型株の2-4倍に増加していた.また,野生型株をメチオニンを与えて栽培するとCGSmRNAの蓄積が抑えられたが,mto1-1変異株では抑えられなかった.従って,野生型株ではメチオニン過剰下でCGSmRNAの蓄積を抑える制御機構が存在するのに対して,mto1-1変異株ではその機構が欠損していると考えられた.遺伝的マッピングにより,mto1-1変異,CGS遺伝子ともに第3染色体の最上端の極めて近い位置にマップされた.CGS遺伝子全体を含む6651塩基対の領域について親株とmto1-1変異株で塩基配列を比較したところ,CGS遺伝子の第1エキソンにアミノ酸置換を伴う1塩基置換が見いだされた.独立に分離した4つのmto1変異株についてCGS遺伝子の第1エキソンの塩基配列を調べたところ,いずれもmto1-1変異と近接した領域にアミノ酸置換をもたらす1塩基置換が見いだされた.従って,この領域の変異がCGSmRNAの蓄積制御に関わっているものと考えられる.mto1変異が半優性変異であることを併せ考えると,mto1変異はCGSmRNAの安定性を制御するシス配列に生じた変異と考えるのが妥当と考えられる.現在,mto1変異部位の持つ機能を解析している.
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