研究概要 |
高等植物におけるメチオニンの生合成制御機構を明らかにするため,シロイヌナズナのmto1-1変異株の分子生物学的解析を行った.mto1-1変異株は若い時期のロゼット葉に野生型株の40倍に及ぶ遊離メチオニンを蓄積する.メチオニンはアスパラギン酸族のアミノ酸であるが,mto1-1変異株において同族の他のアミノ酸の蓄積には大きな違いは見られないことから,メチオニンの生合成経路が他のアミノ酸から分岐するO-ホスホホモセリン以降の段階に変異を持つものと考えられる.シスタチオニンγシンターゼ(CGS)はメチオニン生合成における鍵酵素と考えられているが,mto1-1変異株について調べたところ,CGS mRNAの蓄積とCGSタンパク質の蓄積が共に野生型株に比べて増加していた.また,野生型株をメチオニンを与えて栽培するとCGSmRNAの蓄積が抑えられたが,mto1-1変異株では抑えられなかった.従って,野生型株ではメチオニン過剰下でCGS mRNAの蓄積を抑える制御機構が存在するのに対して,mto1-1変異株ではその機構が欠損していると考えられた.遺伝的マッピングならびに塩基配列の解析により,mto1変異はCGS遺伝子の第1エキソン内にアミノ酸置換を伴う点変異を持つことが明らかになった.従って,この領域の変異がCGS mRNAの蓄積制御に関わっているものと考えられる.エレクトロポレーションを用いた一過的発現系での解析等により,mto1変異はCGS遺伝子のmRNAの安定性に関わる制御機構に変異を持つことが分かった.
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