研究概要 |
前年度までに、タバコBY-2細胞においてオーキシンにより誘導される植物細胞の細胞分裂誘導過程に発現する遺伝子arcAの信号伝達機構に関する解析を行なってきたが、今年度はタバコ葉肉プロトプラストで新しい成果が得られたのでこの概要を紹介する。 タバコ葉肉プロトプラストの細胞分裂の誘導にはオーキシンとサイトカイニンが必要であり、オーキシンにより発現誘導される遺伝子parA,parB,parCが、これまでに同定されている。これらオーキシン誘導遺伝子の発現に関わっては、これのプロモーター領域に、元々カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターで同定されたas-1様の配列が存在していることを明らかにしているが、今年度の研究でそこにはいくつかの転写因子が関与していることを明らかにした。即ち、parAのas-1様の配列には、転写因子ASF-1が結合するが、parCのas-1様の配列には、別な新たにALF-1と名づけた因子が特異的に結合した。更に、parBのas-1様の配列には、上記のいずれとも異なる転写因子が結合していることが判明し、これをALF-2と名づけた。このように、オーキシンの信号伝達に一見類似した構造のシス因子が関与しているが、その信号伝達経路は相当異なっていることが明らかとあった。 ところで、細胞分裂の誘導にはオーキシンの他にサイトカイニンが必須であるが、このサイトカイニンの作用に関しては、先ずオーキシンの作用により、parA,parB,parC遺伝子の発現が誘導され、その後にサイトカイニンにより発現誘導する遺伝子が誘導され、その結果細胞分裂の誘導に至るという過程が明らかになった。そのサイトカイニンに誘導される遺伝子として同定された遺伝子の産物は、アラビノガラクタンに類似の構造を持つタンパク質で細胞外へ分泌して働くと推定されたが、これはサイトカイニンで誘導される遺伝子としては最初の遺伝子であった。
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