研究概要 |
1 D1タンパク質のランダムなアミノ酸置換による光化学系II反応中心の構造と機能の解析 これまでの研究で,形質転換の容易なSynechocystis sp.PCC6803株を用いて,光化学系II反応中心のサブユニットの1つであるD1タンパク質をコードする遺伝子psbA上の広領域にランダムな突然変異誘発を行い,得られた変異株の光独立栄養性喪失を目安とするスクリーニングにより,150株に及ぶ光化学系II機能欠損株を作出した。これら変異株のうち,D1タンパク質を多量に蓄積する株を選び,その光化学系IIの諸特性を解析した。これらの変異株は多様な特性を備えているので,その結果は多岐にわたるが,例えば非ヘム鉄のリガンドと考えられるH272のRへの置換株では変異部位が還元側であるにもかかわらずMn-クラスターが形成されず水分解系が機能しないなど,光化学系IIの構造機能ならびにより一般的にタンパク質の構造・機能相関を考える上で重要な多くの知見が多数得られた。 2 光化学系II反応中心D1タンパク質前駆体のカルボキシル末端(C-末端)プロセシングに関する解析 (1) Synechocystis sp.PCC6803株を用いるパルスチェイス実験から,この株では16残基のアミノ酸よりなるC-末端延長部分の切除が2段階で行われている可能性を示し,さらにこの2段階プロセシングの特徴づけを行った。また,得られた結果とD1タンパク質アミノ酸配列の比較に基づいて,生物種により配列も長さもかなり異なっている延長部分の系統進化と未だ明らかにされていないその機能について,一つの提案を行った。 (2)新しいタイプのセリンプロテアーゼ(Ser/Lys型プロテアーゼ)であるD1タンパク質前駆体C-末端プロセシング酵素が,既知のプロテアーゼ阻害剤だけではなくPenem inhibitor(ある種のSer/Lys型プロテアーゼに有効)に対しても耐性であることを示した。このことから,この酵素の活性中心の構造は全くユニークであると結論された。
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