昆虫の変態に際して、成虫原基は成虫組織の構築に向けて分化・形態形成を開始するとともに、幼虫特異的組織は予定細胞死のもとに崩壊除去される。 カイコ翅成虫原基は5令初期には成虫分化の決定(蛹コミットメント)をうけ、吐糸期後のエクジステロイドサージにより蛹変態を行う。蛹コミットメントは2種類のホルモン、幼若ホルモンとエクジステロイドのバランスによりもたらされる。翅成虫原基の蛹コミットメントはそのホルモン依存性と進行から4期に分けうる段階を経て完了することを明らかにした。また、この間翅成虫原基の幼若ホルモン感受性は大きく低下し、この低下が蛹コミットメントをもたらす上で重要な要素であり、4令期間中の体液幼若ホルモン濃度がほぼ一定であるにも関わらず、幼若ホルモンにより蛹コミットメントが抑制されなくなる現象を説明できるようになった。 カイコ幼虫の絹糸腺は幼虫組織の中最大のものであるが、吐糸終了後崩壊を始める。細胞死はエクジステロイドにより引き金を引かれる。エクジステロイド応答性はガットパ-ジをする夜間の6時間の間に出現し、これ以前ではホルモン濃度を上げても細胞死は誘起されない。ホルモン応答能を有する絹糸腺をエクジステロイド存在下で培養すると、6-7日後には細胞死を完了する。細胞死はDNAラダー、α-アマニチン、シクロヘキシミドによる阻害とうから、アポトーシスである。アポトーシスの進行はその形態学的及びホルモン要求性から4段階に分けうることが明らかとなった。加えて、カスパーゼが関与する段階は3段階であり、現在アポトーシスの分子生物学での研究の最前線の場はアポトーシスの最終段階に近い部分であることも解った。
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