昆虫が蛹に変態するとき、それまでの幼虫特有の組織のあるものは崩壊・除去される。これを予定細胞死、またはアポトーシスと言う。一方で、翅などの成虫特有の組織は、分化の決定を受けた後成虫分化を行う。この決定を蛹コミットメントと称している。本研究は予定細胞死と蛹コミットメントがホルモンの支配下にあり、どの様な微細調節下にあるかを知ることを目的としてきた。 蛹コミットメントに関しては、本年度は以下の成果を得た。カイコ4令幼虫の翅成虫原基を幼若ホルモンフリーで前培養した後、20-ヒドロキシエクジソン(20E)とともに後培養し、その後4令1日幼虫に移植し5令1日で摘出・観察という移植決定に付すと、幼若ホルモンフリーでの前培養時間が32時間を境としてその効果は急激に低下する。この理由を、エクジソン受容体(EcR)の消長に求めるため、カイコのEcRアイソフォーム2種類の発現パターンをみた。その結果、EcRAには全く差が無く、EcRB1に特定の差が認められた。現在、この差が生じる原因を詳細に調べている。 カイコ前部絹糸腺のアポトーシスは、20Eにより誘導される。20Eチャレンジ後数時間のうちに発現してくる死の遺伝子を2種類DD法によりつり上げ、現在この遺伝子の作用を検討している。また、アポトーシスの完了に20Eチャレンジ開始後30時間まで20Eの存在が必須である。この時の20Eの作用は、核受容体ではなく膜受容体を介したものであるとの想定に基づき、研究を進めている。
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