歩行運動遂行中にアメリカザリガニ中枢ニューロンのシナプス活動をホールセル記録するため、今年度は、無麻酔全体標本が歩行運動を行うことができるトレッドミル装置を開発し、これを用いてガラス管微小電極による細胞内記録法を確立するとともに、in vitro標本を用いて、ブラインド・パッチ電極法の適用を試みた。腹部最終神経節内の尾扇肢運動ニューロン、前運動性ノンスパイキング介在ニューロンなど各種の中枢ニューロンに細胞内電極を刺入して調査した結果、トレッドミル上の歩行時にも安定してシナプス活動を記録することが可能であることが判明した。シナプス活動以外には、歩行運動中も静止電位に変化は認められず、微小電極が安定して細胞内に維持されることが示された。この標本・トレッドミル装置は、ホールセル記録においても使用可能と考えられる。 一方、in vitro標本は、腹部最終神経節を単離したのち、実験用チェンバー内の生理食塩水中でシリコン底面に不動化した。細胞体層が存在する腹側を上にして、神経節表面の結合組織性の神経節鞘をピンセットとマイクロシザーズを用いて除去したのち、ピペッティングにより、細胞体表面の疎性結合組織を取り除いた。運動遂行中のシナプス活動をホールセル記録するためには、作動距離が十分に長い(>20cm)実体顕微鏡下に標本をおく必要がある。今年度は、この状態でギガシール状態を確立することを目標とした。電極には、10mlのシリンジを用いて手動的に陽圧をかけながら細胞表面を探索した。電極先端の位置は、実体顕微鏡下で直接確認するのが困難であり、電極に電流を通電して、その抵抗をモニターしながら推定した。この方法で、電極先端が細胞体層に接近する様子は確認することができたが、ギガシール達成することはできなかった。細胞体層表面をさらに酵素処理する必要性も考えられるが、これまでの微小電極による細胞内記録での結果から、酵素処理の細胞に与える損傷も十分に考慮する必要があり、次年度の課題である。
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