行動遂行中のアメリカザリガニのノンスパイキング介在神経活動をホールセル記録法によって解析するための実験的基盤を確立する目的で、今年度は、腹部神経節の単離標本を用いて、ニューロンの細胞体を実体顕微鏡下で露出し、パッチ電極を適用して、その膜での単一チャンネル電流記録を行った。電極にはザリガニの生理食塩水か、もしくはGarcia-Colunga et al.(1999)記載の溶液を充填した。電極抵抗は生理食塩水中で4-8MΩであった。短形波パルスに対する電極の電流応答をオシロスコープでモニターしつつ、陽圧をかけ、細胞体の表面に付着していると思われる細胞外基質を吹き飛ばしながら、実体顕微鏡下で油圧式微動マニプレータを用いて徐々に電極を細胞体に近づけ、Giga-seal状態を確立した。さらに、細胞体膜から、自発性のチャンネル開閉による単一チャネル電流を記録することに成功した。保持電位を静止電位に設定した状態で外向き電流であることから、カリウムチャンネルと推定された。これらの結果は、実体顕微鏡下でパッチ電極をザリガニ中枢ニューロンに適用することが可能であることを示している。また、ニューロン細胞体の露出は、単離標本の他、全体標本でも可能である。従来、無脊椎動物のin situ中枢ニューロンにパッチ電極を適用した例は非常に少ないが、今回の研究結果は、行動遂行中の全体標本にも、パッチ電極を適用してその中枢ニューロンのシナプス電流を記録・解析することが可能であることを示している。
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