行動遂行中のアメリカザリガニProcambarus clarkii Girardのノンスパイキング介在神経活動をホールセル記録法によって解析するための実験的基盤を確立する目的で、微小・パッチ電極が適用可能な無麻酔全体標本の開発、電圧固定実験によるノンスパイキング介在神経膜電流の測定・解析、実体解剖顕微鏡下でのパッチ電極のin situ細胞への適用、の3点に的を絞って研究を進めた。その結果、1)トレッドミル上を歩行する無麻酔全体標本を開発し、その腹部最終神経節内の前運動性ノンスパイキング介在神経からシナプス活動を記録して、その生理学的特徴を調査し、歩行運動系による姿勢反射のゲート機構におけるノンスパイキング介在神経の機熊的役割を明らかにした。また、2) ノンスパイキング介在神経の樹状案起でのシナプス電流の時間・空間的分布に大きな影響を持つ突起膜の電位依存型膜コンダクタンスを、ガラス管微小電極を用いた不連続膜電位固定法により解析し、脱分極依存性の外向き整流性質が3種類のカリウムコンダクタンスの働きによって実現していることを実験的・理論的に証明した。さらに、3)実体顕微鏡下でin situの神経節ニューロン細胞体表面を機械的に露出して、これにパッチ電極を適用してその膜の単一カリウムチャンネル活動を記録可能であることを示した。これらの結果は、行動遂行中の全体標本に、パッチ電極を適用してその中枢ニューロンのシナプス電流を記録・解析するための基盤を確立するものである。従来、無脊椎動物のin situ中枢ニューロンにパッチ電極を適用した例は非常に少ないが、今回の研究結果は、行動遂行中の全体標本にも、パッチ電極をin situ中枢ニューロンに適用して、そのシナプス電流を記録・解析することが可能であることを示している。
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