近年のゲノムプロジェクトの著しい伸展とともに多くの蛋白質の遺伝子の配列が明らかにされてきた。これらの遺伝子配列はデータバンクに蓄積され、その情報量の増大と情報ネットワークの充実の結果、1つの遺伝子がコードする1つの蛋白質が全く異なった2つ以上の機能を持っていることが発見されたのである。我々は繊毛虫テトラヒメナから2つの多機能蛋白質、14nm繊維蛋白質/クエン酸合成酵素とペプチド伸長因子-1α(EF-1α)、を発見した。14nm繊維蛋白質/クエン酸合成酵素は細胞質では細胞骨格として機能し、ミトコンドリアではクエン酸合成酵素として機能していた。特に接合過程ではこの蛋白質は配偶核形成、配偶核の交換、受精に関与していた。EF-1αは14nm繊維に結合し、アクチン繊維を束ねる働きを持っていた。 本研究は多機能蛋白質が全く異なった機能を持つ分子機構の解明を目的とした。この3年間の研究はこの分子機構の一端を明らかにした。まず最初に14nm繊維蛋白質とクエン酸合成酵素が全く同じ蛋白質であることを大腸菌で発現させたリコンビナント蛋白質を使って証明した。次に、クエン酸合成酵素活性と14nm繊維形成能が翻訳後の修飾、すなわちリン酸化脱リン酸化によって調節されていることを明らかにした。さらに、14nm繊維蛋白質/クエン酸合成酵素にはシャペロニン(hsp60)が結合し、EF-1αにはhsp70が結合することを明らかにした。これは多機能蛋白質の多機能性の発現にシャペロンが関与していることを示唆している。今後はリン酸化脱リン酸化やシャペロンによる蛋白質のおりたたみがどのように多機能性の発現を制御しているかを蛋白質の高次構造に焦点を絞って検討して行かねばならない。
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