研究概要 |
1.MADS遺伝子は被子植物では花器官形成のマスター遺伝子として知られている。花器官の進化プロセスを推定するため、花器官を形成しないシダ類のリチャードミズワラビからMADS遺伝子を単離し、ノーザン解析により発現部位を特定した。また、in situハイブリダイゼーションで、より詳細な発現場所を特定した。その結果、リチャードミズワラビMADS遺伝子は被子植物とは異なり、特定の器官で発現するのではなく、植物体全体の栄養器官、生殖器官の両方で発現していることがわかった。また、被子植物では、MADS遺伝子は12ほどサブグループに分化しているが、シダ類では、3つにしか分化していないことがわかった。このことからリチャードミズワラビの持つ単純な形態の生殖器官から複雑な花への進化は、遺伝子重複によるMADS遺伝子の数の増加と機能分化によって引き起こされたのではないかという仮説をたて、論文にまとめた。 2.コバノグネツムから4種類のMADS遺伝子(GNE1,2,3,4)を単離した。ノーザン解析によって、生殖器官である雌性胞子嚢穂と栄養器官である葉での発現量を比較したところ、GNE3は生殖器官で栄養器官より強い発現が確認されたが、それ以外の遺伝子については両器官で同様な発現が見られた。さらにGNE3の発現場所をin situハイブリダイゼーションによって調べると、カラーの辺縁部で発現が見られた。現在、他のGNE遺伝子についても実験中である。本実験で、裸子植物においても、被子植物で見られるように、生殖器官でのMADS遺伝子の特有の組織での発現が見られることがわかった。このことは、MADS遺伝子の機能分化が裸子植物でも見られることの始めての報告になるであろう。
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