メガネザルはインドネシアとフィリピンに分布する小型で極めて特異的な原始的サル(原猿)である。形態的には多くの点で他の原猿と真猿類との中間的存在であるとの説が提唱されている。メガネザルの染色体数は80もあり、霊長類の中でも最高の値を示す。本研究では、この種の染色体学的な特徴をとらえ、ヒトや他のサルとの染色体での対応を明らかにすることを通して、その系統的位置関係を明らかにすることを目的にする。 本年度は、1996年8月にインドネシア・ボゴールの霊長類研究センターとの共同研究により得た、ニシメガネザル(Tarsius bancanus)血液培養による染色体標本の分析ならびに、腎臓と肺よりえた培養細胞を用いた染色体標本の新たな作製を行った。ブロモデオキシウリジン(BrdU)を培養液に添加し、染色体上に特徴的複製バンドパターンを呈させて、核型の標準化をまず行った。次いで、性染色体に注目し、ヒトX染色体特異的DNAライブラリーをプローブとした蛍光In situ hybridization(FISH)を行った。これにより、X染色体の進化的保存性が明らかにされた。一方、Y染色体は特徴的な形態を示し、大きな後期複製の部分をもつことがわかった。このY染色体の特異性は予期外のものであったので、その反復配列の特徴を調べることとした。ヒトのY染色体に存在するDYZ1という反復配列をプローブとしてFISHを行ったところ、全く異なったクラスの反復配列であることが判明した。このように種特異的に進化した塩基配列を分析することにより、この種の系統的位置が明かにされることが期待される。
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