メガネザルはインドネシアとフィリピンに分布する小型で極めて特異的な原猿である。メガネザルの系統的位置づけは形態学的研究では決め手がない。そこで分子生物学的研究が必要である。本研究では、新しい分子細胞遺伝学的手法を用いて染色体レベルでの研究を行い、次のような研究成果を得た。 (1)インドネシアに生息するニシメガネザル(T.bancanus)雄の血液細胞の培養により、複製バンド染色体標本を作製し、ニシメガネザルの染色体模式図を作成した。 (2)腎臓細胞の初代培養から2年間継代を続け、増殖を続ける細胞系(Tm)を得た。染色体構成は80-120で、3倍体とおもわれる細胞が占める割合が多い。 (3)ヒト各染色体特異的ペインティング・プローブを用いて、Zoo-FISH法によりヒトの各染色体に対応する染色体を特定した。ヒトのX染色体ペインティング・プローブによりメガネザルのX染色体全体がペイントされ、この染色体の保存性が確認できた。 (4)ヒトやマウスの新規遺伝子のcDNAの位置を決定し、これらのプローブを用いてメガネザル染色体上に相同遺伝子の位置を探索した。また、Y染色体の長腕部分にヒトY染色体の特異的反復配列(DYZ1)とは異なる種類の多量の反復配列が存在することがわかった。 (5)腎細胞より抽出したDNAを使用し、ラムダファージベクターに組み換え挿入したライブラリーを作製した。今後のDNAレベルでの解析に有用である。
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