インドネシア、ジャワ島中部のサンブンマチャンからは、1977年に著しく化石化したヒトの脛骨骨幹片が採集された。この骨は表面採集品であるため、その出土層位に関する記録がなかった。サンブンマチャンでは、2つの哺乳動物化石包含層(カブー層とセトリ層)が確認され、一方(カブー層)はジャワ原人の時代、他方(セトリ層)はソロ人(旧人)の時代に対比するものと考えられている。件の脛骨の古さについては、フッ素分析による予備的検討が試みられ、脛骨が化石人類のものであることは強く支持されたものの、出土層位を特定するまでは至らなかった。著者らは最近、フッ素の他、骨中に含有される種々の成分元素を指標とし、多変量判別分析を用いることにより、化石産出層準がより詳細に判別できることをインドネシアのサンギラン地域において確認したが、本研究は、この新たに開発された年代判定法をサンブンマチャン産の人類脛骨に応用し、その層序的年代を明らかにしようするものである。まず、サンブンマチャンの哺乳動物化石を産する2つの層準からin situで採集された動物骨約20点を比較資料とし、ICP発光分析法を用い、化石を構成する主要成分および少量・微量成分の多元素分析を行い、地球化学・年代学的考察を加えるとともに分析データの統計解析を行うことによって、サンブンマチャン人類化石の出土層準判定用基準データを作成した。次に、件のヒト脛骨を同様に分析し、基準データとの対照により、出土層準の検討を試みた。その結果、人類脛骨に関しては、カブー層に由来する可熊性が高いことが示唆された。本研究の成果は、1973年に当遺跡で発見された化石人類頭蓋の年代学的研究に将来資するものであり、また、Pithecanthropus(Homo) erectusの種小名の元となったジャワ島トリニール産ヒト大腿骨の地質年代に関する論争にも関与していくものと考えられる。
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