本研究の目的は、水素と点欠陥の相互作用を利用することにより、シリコン中に高温で存在する点欠陥、特に格子間シリコン原子の性質を解明することであった。 まず水素雰囲気中でシリコン単結晶を育成し、その光吸収スペクトルを測定した。その結果、1)炭素やボロンのようなシリコンより共有結合半径が小さい不純物が含まれている場合にのみ、2223cm^<-1>等の位置に鋭いピークが観測される、2)炭素が含まれている場合にも、アンチモン(共有結合半径がシリコンより大)を多量にドープするとそれらは観測されなくなる、ことが見いだされた。この結果は、上記の光吸収ピークが水素・格子間シリコン原子複合体に因るものであることを示す。なぜなら、スワール等の研究から、共有結合半径が小さい不純物がドープされると格子間シリコン原子の集合体、逆に大きいものがドープされた場合には原子空孔集合体が形成されることが知られているからである。 次に、金をドープしたシリコンの水素雰囲気中における急冷実験を行った結果、2223cm^<-1>ピークを検出した。この結果もこのピークが水素・格子間シリコン原子複合体によるものであることを支持する。なぜなら、金はシリコン中でキックアウト機構で拡散し、格子間シリコン原子の濃度が高いことが知られているからである。そして、金をドープしたシリコン中の格子間シリコン原子の形成エネルギーとして2.1eVを得た。このようにして、本研究の目的の半ばまでが達成された。あとは、高純度シリコン中での形成エネルギーを求めることが必要である。 次に、水素をドープしたシリコンを電子照射して焼鈍したところ、2223cm^<-1>ピークが現れることが見いだされた。このことは、電子照射したシリコン中に格子間シリコン原子が存在することを示す。従来、このような結晶中では格子間シリコン原子が直接検出されたことはなかった。
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