シリコン・テクノロジーに代表される半導体デバイスの高集積化、極微構造への急速な発展にもかかわらず、驚くべきことに、シリコン結晶に関する最も基本的なデータであるべき熱平衡欠陥の種類の同定はもとよりそれらの絶対濃度に関しては、全く無知の状態にある。最近、デバイス製造プロセスにおいて、固有点欠陥に起因すると想像される種々の問題が顕在化してきた。しかし、これまで、点欠陥を敏感に検出し得る実験手法が欠如していたために、点欠陥の濃度はおろか種類さえも同定されていない。 本研究では、陽電子の消減と拡散特性を温度の関数として同時測定することにより、シリコン中の熱平衡欠陥の種類を同定するとともに、種類毎にその濃度を温度の関数として精密決定することを目的としている。平成9年度には、単色パルス陽電子ビームの整備、熱平衡測定用高温加熱装置の整備を行なった。高温加熱装置には赤外線加熱方式を採用し、予備的な加熱試験に成功した。陽電子の150psecパルスの発生に成功した。熱平衡実験に最適なシリコン試料の選択のために、種々の成長条件で育成された単結晶について、2検出器法による超精密ドップラー拡がり測定を実施した。その結果、FZ成長シリコンでは、かなりの濃度の原子空孔型欠陥が室温でも残留しているのに対し、Cz成長シリコンでは、熱平衡点欠陥と固溶酸素原子との強い相互作用のために、欠陥反応が起こっていることを発見した。これらの知見から、FZ成長シリコンの熱平衡測定を現在実施中であり、実験データの解析法を開発中である。今年度末に一連の測定が終了するので、次年度以降、本格的な計測につなげる予定である。
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