本年度はまず従来われわれが確立した半導体GaAs(111)基板上NaCl(111)極性面安定化の機構を探るため、より詳細な電子分光測定をおこなった。その結果、バッファー層として狭んだ銅ハライドから解離し、サーファクタント的な役目をして成長進行と共に常にNaCl(111)表面に存在するCu原子の量が、1/2-1/3分子層程度であることがわかった。このCu原子と表面のNa原子との間の電荷移動により、試料表面の1原子当たり単位電気素量の1/2の電荷が存在し、(111)方向の巨視的な電場を打ち消していることが明かになった。 引き続き同じ岩塩型構造をとる酸化物の極性面を作製するため、まずMgOの成長条件探索した。Mg蒸着膜を定量の酸素を曝し、各種電子分光でその酸化状態を追跡した結果、室温基板状態で20Lの酸素暴露により最表面はMgOとなることが明かになった。本研究の特徴はエピタキシ-の観点から新機能表面の作製条件を探索することにあり、基板物質の選択が重要である。格子整合性から考えて、MgOと最も良く整合する格子定数を持つ基板としてMoS_2を用いて、そのうえにまずMgをエピタキシ-させ、その後酸素に曝してMgOの作製を目指しているが、現在までのところ、Mgのエピタキシ-条件を明かにした。 もう一つの課題であるアルカリハライドヘテロ構造の解明に関しては、光学測定による界面ひずみの存在を始めて明かにし、さらに界面近傍での格子定数の連続観察をマイクロチャンネルプレートの導入により可能にした。これによりヘテロ構造作製の精密化が図られ、新機能表面作製の手法に大きな進展が得られた。
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