本研究は、ダイヤモンドが酸素雰囲気中での放射光照射により照射領域がエッチングされることをはじめて明らかにした。これはダイヤモンドの微細加工技術への応用につながるものと期待される。これまでの研究で明らかになった点は以下のようである。研究は分子科学研究所UVSORを光源に用いて行われた。 1.材料依存性:代表的な実験条件は、0.1torr の酸素雰囲気中に置かれた室温の試料に白色放射光を照射する、というものである。CVD薄膜、高圧合成単結晶、および天然ダイヤモンドのいずれの試料においてもエッチングが観測され、そのエッチングレートは約0.2Å/mA/minであった。 2.基板温度依存性:試料を液体窒素およびヒーターで-140℃から300℃まで変化させた。この結果、この温度範囲内ではエッチングレートはほぼ一定で、放射光によるエッチングは熱活性を伴わない反応で、光励起が本質的であることを示した。 3.酸素濃度依存性:酸素が低圧(<0.2torr)ではエッチングレートは圧力とともに増加するが、それ以上では減少傾向を示す。この結果、低圧では光解離で生成される酸素原子の供給で律速され、高圧域では表面に到達する光子数で律速されている、と結論できる。 4.波長依存性:炭素薄膜フィルターの透過光及びSiCミラーによる反射光を用いて、ダイヤモンド表面の炭素原子の価電子励起とK殻励起のエッチングに対する寄与を評価した。この結果、エッチング収量(表面第1層で吸収される光子数に対するエッチングされた炭素の原子数の割合)はK殻励起に対しては100%、価電子励起に対しては1.6%であった。この結果、固体表面からの光脱離に対するKnotek-Feibelman機構(内殻励起に続くオージェ過程から多重正孔が生じ、この終状態でのクーロン反発により脱離が起こる)がこの場合にも適用できる可能性を示した。
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