本研究の目的は、走査型アトムプローブ(SAP)の特異な機能を生かして絶縁性薄膜からの光励起電界電子放射の機構を明らかにすると共に、電子放射の最適条件を見出すことにある。そこで、抵抗率の高い化学蒸着法(CVD)や高圧高温法(HPHT)により作製されたダイヤモンド、純度が99.8と99.99%のグラファイト、ガラス状炭素、酸化膜に覆われたシリコンと弗酸により表面の処理したシリコン、更に微細加工を施したシリコン表面などをパルスレーザー光を照射してSAPにより分析した。注目するべき成果は、ダイヤモンドに大量の水素が含まれており、その濃度がダイヤモンドの成長過程での水素分圧に比例して高まることを明らかにした事である。また、全ての炭素材料から炭素原子のクラスターが検出されたが、会合数が奇数のクラスターが多い事と、高純度のグラファイトから多数の高会合数のクラスターが検出されたことも注目に値する。次に、弗酸で処理したシリコンでは、表面層内の酸素量は激減するが、炭素は残留すること、また、微細加工したシリコンマイクロティップでは、弗酸処理により表面層が著しく汚染され、弗素、酸素、炭素がシリコン内部深くまで侵入・拡散する場合があることも明らかにした。光励起電界放射を調べる試料は、ガラス薄板上に碁盤の目状に溝を切り、電界放射に適した微細な突起を形成させ、次に、ガラス面上に電導性透明薄膜を蒸着し、絶縁性のSiO_2薄膜で覆って作製した。電導性透明薄膜からSiO_2薄膜を通しての電界電子放射を期待したが、膜の厚みが不均一であり、微細な亀裂を通して下地の電導性透明薄膜より電子が放射されたので、光励起電界放射を確認するに至っていない。基盤のガラス面に切り込んだ溝による凹凸が亀裂の要因と考えられるので、この様な凹凸のある面上に均一な厚みを持つSiO_2薄膜を形成する新たな手法の開発に努めると共に、絶縁性の有機薄膜を通しての光励起電界放射の可能性を探っている。
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