本研究の主目的は、フェムト秒光パルスによる超高速音響フォノン生成についての我々の理解を、基本的な半導体材料や半導体ナノ構造にまで広げることにある。数μmの直径にまで集光された励起光および検出光を用いることにより、1μm以下の水平分解能およびサブピコ秒の時間分解能を持ってコヒーレントフォノンの観測を行うことができた。この目的のために我々は垂直入射・反射光学系を持つ超高速Sagnac干渉計を開発した。 以下の研究を行った。 1) ピコ秒領域のコヒーレント音響フォノンの検出のためにSagnac型干渉計を設計製作した。この設計は、垂直入射・反射測定に適している。また、参照光と検出光が共通の光路を通るので、音響的および熱的な寄生揺乱に強い。 2) GaAsバルク結晶の(100)面におけるコヒーレント縦音響フォノンの生成および検出を行った。バンドギャップ以上のエネルギーを持つ励起光および検出光は、試料の同じ側から入射され、バルク試料におけるコヒーレントフォノンパルスの伝播状況が観測された。 3) 厚さ5μmのAl_<0.3>Ga_<0.7>As(100)基板上に形成された、厚さ50nmのGaAs(100)薄膜のコヒーレント縦音響フォノンの生成および検出を行った。バンドギャップ以上のエネルギーを持つ励起光および検出光は試料の表裏の方向から入射した。この光学配置により、検出された信号から、フォノンパルスによる信号と、熱的および電子的な信号とを分離することができた。 4) 原子スケールの周期を持つGaAs/AlGaAs超格子におけるコヒーレント音響フォノンの生成および検出を行った。励起光の波長を830nm付近に調整することによって、GaAs層の選択的な励起を行った。積層方向に垂直な劈開面の励起を試み、縦音響フォノンが積層面内を伝播する様子を観測した。 更に、金属中のフォノン生成検出についての理論的な研究を発展させ、自由電子ガスの非平衡緩和過程の解析的な取り扱いを初めて可能にした。様々な半導体試料や10THz以上の音響フォノンにこれらの手法を適用するためには、更なる研究が必要である。
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