本年度は紫外線領域対応のラマン分光用トリプル分光器を新たに導入し、これに液体窒素冷却CCDカメラを接続して、時間分解ラマン測定装置を完成した。これにより波長約900nmの近赤外から190nmの紫外領域までのラマン測定が可能になった。まず、チタンサファイア、色素、およびアルゴンレーザーを用いた測定を行った。Si-Geの混晶系において、価電子帯間励起に相当する共鳴電子ラマン散乱(IVRS)を測定し、フォトンエネルギーと混晶比の関数としてラマンシフト、バンド幅を求めた。ラマンシフトは組成比によって変化するバンドギャップを考慮したモデルで理解出来、ラマンシフトはブリルアンゾーンの中の共鳴条件で選び出された場所での重いホールと軽いホールの分裂の大きさに対応することを示した。また、スペクトルの幅はキャリアーの寿命を反映しているものと解釈される。これにより、IVRSがダイヤモンド類似構造の間接ギャップ半導体における価電子帯の構造の研究に、かなり一般的に適用できることを示すことができた。いくつかのSiCポリタイプ結晶について、Nd-YAGレーザーパルスの4倍高調波(波長266nm)を用いて紫外励起による共鳴ラマン錯乱を測定した。その結果、LOフォノンの折り返しモードの強度が著しい共鳴増大を示すことを見出いだした。さらに、過渡的に作られたキャリアー(電子、正孔)に起因するプラズモンとの結合によるLOフォノンの周波数シフトおよび幅、強度の変化を見い出した。励起パルス強度に対する依存性から、そのスペクトル形状がキャリアー密度の時間分解測定法として利用できることを実証した。これは紫外のパルス励起ラマン分光により初めて可能になった成果である。これらのラマンバンドの時間分解測定を詳しく行うことにより、目的の高速緩和の追跡が可能になると期待される。
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