本研究は、次世代の超大容量通信のキーデバイスを提供することを目指し、量子井戸のサブバンド間遷移を用いた独自の超高速の光制御光変調デバイス実現を研究の目的としている。本年度は、前年度に開発したInGaAs/AlAs量子井戸あるいはAlGaAs/GaAs量子井戸デバイスを用い、かつ前年度に構築したフェムト秒の分解能をもつボンプ-プローブ測定系を用いて、(1)変調速度を決定する量子井戸のサブバンド間の電子緩和を明らかにすること、さらには、その結果を元に、(2)実際に変調実験を行い、ピコ秒程度の非常に高速な光-光変調動作を実証することを目的として研究を進めた。 まず、中赤外域(4〜10μm)にサブバンド間遷移をもつ、AlGaAs/GaAsのサブバンド間の電子緩和を測定したところ、0.6psと極めて速い緩和時間が得られた。この値は、LOフォノンの効果を考慮した電子緩和の理論値とほぼ一致した。一方、近赤外域(2μm域)にサブバンド間遷移をもつ、InGaAs/AlAs量子井戸に対し、サブバンド間電子緩和を測定したところ、2.7psという値を得た。このような短いサブバンド間遷移波長での電子緩和の測定は本研究が初めてであったが、この結果から、サブハンド間波長が短くなると電子緩和時間が若干遅くなることが分かった。様々な考察の結果、この原因はバンド内の電子緩和過程が無視できなることが原因であることが判明した。 続いて、実際に、量子井戸デバイスを用いて光-光変調実験をフェムト秒の分解能で試みた。その結果、AlGaAs/GaAs量子井戸デバイスにおいて、変調速度1.3psという極めて速い変調速度の実証に初めて成功した。変調効率も極めて高いことが判明し、2fJ/um^2の制御光エネルギーで、1000cm^<-1>を越える吸収係数の変化が得られることが示せた。また、制御光波長依存性等の実験を行ったところ、確かにこの変調がサブバンド間電子遷移に起因するものであることが実証された。変調速度が、サブバンド間緩和時間(0.6ps)に比べて若干遅くなっているのは、電子温度の上昇が原因である可能性がある。このあたりに関しては、より詳しい検討が必要であると思われる。いずれにせよ、本研究を通じて、初めてサブバンド間遷移を用いた超高速光-光変調が実証された。′ 以上の成果により、国際会議では、International Symp.Compound Semiconductor'98およびPhotonicWest99での招待講演を行い、学術雑誌では、OpticalandQuantumElectronicsからの招待論文依頼、国内では、電子情報通信学会論文誌からの招待論文依頼を受けた。
|