走査プローブ顕微鏡観察に基づき単分子膜の表面凝集形態を評価検討し、多成分二次元凝集系の分子凝集挙動に関する以下の結論を得た。 炭素数が16〜28の脂肪酸では、アルキル鎖長差が4メチレン基、疎水基間凝集エネルギー差としては28kJ/molの場合には混合単分子膜は一相混合状態、アルキル鎖長差が6メチレン基、疎水基間凝集エネルギー差としては42kJ/molの場合にはミシビリティー・ギャップ内での相分離またはミシビリティー・ギャップ外での一相混合状態、アルキル鎖長差が8メチレン基以上、疎水基間凝集エネルギー差としては56kJ/mol以上の場合には非相溶な二相分離状態になることが明らかとなった。特に、ミシビリティー・ギャップ内で生じた相分離形態は共連続状態にあり、表面圧増加にともない相分離サイズが減少したことから、二次元系単分子膜における相分離はスピノーダル分解により生じることが示唆された。また、上記3領域の形成は水相温度に依存し、脂肪酸二成分系単分子膜は水相温度の増加にともない二相から一相状態へと変化する上限臨界共溶温度型に属することが示唆された。多成分系単分子膜の分子凝集挙動を決定する他の因子として親水基間の静電相互作用が確認され、この作用が表面圧依存性に関わることが明らかとなった。また、分子凝集挙動には単一系分子膜の相は関与しないことも明らかとなった。さらに、非相溶な二相分離単分子膜中で形成されるドメインサイズは主に膜調製時の過冷却度に依存し、アルキル鎖長の増加にともないドメインは小さい状態で凍結されることが明らかとなった。
|