研究概要 |
マイクロマシンの実用化は,機械としての信頼性確保,ひいてはそれを構成する微小機械要素の信頼性の上に初めて成り立つものである。本研究課題においては,ミクロンメータサイズの機械的特性およびその環境強度特性を評価するために,微小な動的荷重を精度良く負荷することの可能な微小材料機械的特性評価装置を開発し,今年度はSi単結晶微小片持ちはりの破壊強度と疲労強度に及ぼす微小切欠きの影響と水環境効果について検討した。その結果,集束イオンビーム(FIB)装置により導入したサブμmオーダの微小切欠きにより破壊強度が低下すること,また,破壊は切欠きを起点として発生した後,(lll)に沿ってき裂が進展して最終破壊に至ることを明らかにした。併せて,空中において繰返し荷重下の疲労試験を行ったところ,疲労破壊挙動は観察されず,また試験片表面や切欠き部を走査型原子間力顕微鏡を用いて詳細に観察しても,疲労を生じる金属材料などで観察される突き出しや入り込みなどの疲労損傷はnmオーダでも観察されなかった。したがってSi単結晶微小機械要素は空中では疲労を生じないものと結論された。さらに,水環境中において疲労荷重を負荷したところ,空中強度からの水環境中強度が低下し,その低下は水に浸漬される時間が長いほど大きくなった。この時,試験片表面を走査型原子間力顕微鏡を用いて詳細に観察したところ,水環境下では局部的腐食を生じ,その部分で(lll)面に沿ったき裂状損傷が生じていることが観察された。したがって,水環境中では,動的応力と水環境の相乗効果により(lll)面に沿ったき裂状損傷が生じ,その部分の応力集中がある限界値を越えると最終破壊にいたるものと考えられた。このように,微小機械要素ではとくに通常の機械要素では無視されるような微小切欠きによっても強度が低下すること,また,環境効果が大きく現れることが明らかとなった。
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