研究概要 |
本研究の目的は,高温における下限界近傍の疲労き裂伝ぱ挙動の把握と下限界のメカニズムの解明にある.このため,高温疲労き裂伝ぱのマクロ実験を行い,雰囲気の影響、負荷繰返し速度の影響,温度の影響,および負荷変動の影響を系統的に明らかにする.同時に,分子動力学ミクロ解析による疲労き裂伝ぱのシミュレーションを行い,上記各因子の影響を計算面から検討する.これらの結果を総合することにより,下限界近傍の高温疲労き裂伝ぱ挙動の特性を明らかにし,下限界形成機構の主因子を解明する. 平成9年度に得られた主な研究成果は,以下の通りである. 1.SUS304鋼を対象として,K_<max>一定試験法を用いるとともに,応力比Rを0.5以上の大きな値とし,中高温および高温条件下における下限界近傍のき裂伝ぱを調べ,高温下限界を求めた.クリープ温度条件下でも下限界が存在し,その値は500℃前後で極大値をとることが明らかとなった. 2.繰り返し速度νを30Hzと3Hzの2通りに設定し,下限界近傍のき裂伝ぱ挙動に及ぼす繰返し速度νの影響を明らかにする実験を行った.また,ひとつの実験内で繰返し速度νを30Hzから3Hzに交互に変更する実験を行った.高温き裂伝ぱに,繰返し数依存性が現れる場合と現れない場合とがあった.これらの一見矛盾する実験結果について,考察を行った. 3.分子動力学法を用いて,鉄における下限界近傍の疲労き裂伝ぱのシミュレーションを行った.き裂面の酸化に対応させて,き裂面をはさむ原子間では相互作用力が弱まることを考慮した計算スキームを導入した.その結果,疲労き裂伝ぱ下限界現象が分子動力学法によりシミュレート実現できることがわかった.
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