研究概要 |
本研究の目的は,高温における下限界近傍の疲労き裂伝ぱ挙動の把握と下限界のメカニズムの解明にある.このため,高温疲労き裂伝ぱのマクロ実験を行い,雰囲気の影響,負荷繰返し速度の影響,温度の影響,および負荷変動の影響を系統的に明らかにする.同時に,分子動力学ミクロ解析による疲労き裂伝ぱのシミュレーションを行い,上記各因子の影響を計算面から検討する.これらの結果を総合することにより,下限界近傍の高温疲労き裂伝ぱ挙動の特性を明らかにし,下限界形成機構の主因子を解明する. 平成10年度に得られた主な研究成果は,以下の通りである. 1. SUS304鋼を対象として,550℃,応力比R=0.5,真空条件下で疲労き裂伝ぱ実験を行った.その結果,き裂伝ぱ速度da/dNは,大気中の0.1倍以下に低下した.また,繰返しとともに荷重を低下させることにより,ΔK漸減試験を行い,下限界特性を調べた.大気中の下限界値,ΔK_<th>=3.5(MPa√m)に対し,真空中の下限界値は7(MPa√m)程度と大きくなった. 2. 経年劣化を受けたCr-Mo-V鋼を用いて,560℃で下限界近傍のき裂伝ぱ挙動を調べた.高温で使用された材料と低温で使用された材料のき裂伝ぱ特性には,大きな差はなかった. R=0.5とR=-0.1のda/dNを応力拡大係数範囲ΔKを用いて整理したときには,顕著な応力比依存性があった.有効応力拡大係数範囲ΔK_<err>を用いて整理してもRの影響が認められたが,その程度は小さくなった. 3. 分子動力学法を用いて,鉄における下限界近傍の疲労き裂伝ぱのシミュレーションを行い,計算手法について検討を行った.
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